当初は、AIIBに乗り遅れるな、という議論が強かったのですが、最近は、財界も静観論が多くなり、親中国の与党政治家、一部の野党以外は参加論が聞こえなくなりました.
よみうりオンラインによれば、AIIB設立協定の内容が固まったようです。
資本金1000億ドル(約12兆3000億円)のうち中国の出資額は最終的に297億ドルと最大になり、出資比率などに基づき算定する「議決権」も25%を超えて、最重要事項を決定する際に事実上の「拒否権」を持つことが確定した。運営の中心となる理事会では、出資額が上位の中国、インド、ロシアの3か国が常にポストを握る。
創設メンバー57か国の代表は29日、北京の釣魚台国賓館で設立協定に署名し、年内の業務開始をめざす。
中国に続いて、印83億ドル、露65億ドルの出資が決まり、この3国が常任の理事国となるそうです。
米国の反対を押し切って駆け込み参加した韓国は、独(44億ドル)に次いで5番目の出資(37億ドル)となりました。
以下、豪、仏、伯、インドネシア、英が44億ドルから30億ドルの出資で続くそうです。
さすがは百戦錬磨の中国です。政治的には上出来な仕上がりではないでしょうか。
さて、元金融マンとしてこれらの報道を見て感じることを述べたいと思います。
桜が満開の頃、「
中国による中国のためのAIIBはお手並み拝見」という記事を書きましたが、これを、「中国共産党による中国共産党のためのAIIBはお手並み拝見」と改めたいと思います。報道によると、政府を仕切る李克強ではなく、習近平中国共産党直轄のプロジェクトのようです。
北京に本店を置き、中国人の総裁、事務局は中国人中心、理事は非常勤、無給で、融資案件は理事によるメール会議で決めるそうです。そして、中国が拒否権を持つわけです。
要するに、中国人が作った資料を理事会用に英語でサマライズし、メールに添付するのでしょうから、理事会は、飾り物ですね。
日本政府が懸念していた、国際金融機関としてのレベルのガバナンスは、形だけになりそうです。
私が予期していた以上に、中国的な国際金融機関です。
もちろん、ADBその他の国際機関、欧米や韓国、印などから、高給で経験者を募り、北京の一等地に住宅を準備するそうですから、あるいは優秀な人たちが事務局に参加するかもしれませんが、英語だけではなく、中国語でしっかり議論できるモラルの高い金融人がどれだけいるでしょうか。
たとえ、日本に協力を求められても、そのような日本人は数える程しかいないと思います。
待遇が良さそうですから、もしかしたら悪い生活環境にもかかわらず、人材が集まるかもしれませんが、飾りのような人材を何人か集めても、基本が中国カルチャーですから、世銀やADB並のしっかりした事務局にはならないでしょう。
これらから分かることですが、世界中が承知している中国の腐敗を断ち切る仕組みが見あたりません。
金融機関が汚職まみれになれば、潰れます。
この仕組みでは、どのインフラプロジェクトを採り上げるかは、中国次第です。これだけで、相当高い汚職可能性が窺えます。新しい腐敗システムを作ったようなものです。
中国的な事務局も腐敗に犯されるでしょう。資料に手心を加えることは簡単です。中国語から、英語にする段階も怪しいと思います。
高給国際金融マンも色に染まっていくのではないでしょうか。非中国人であっても、金銭的な誘惑には弱いものです。
少なくとも、この段階では、国際金融機関としての志や魂は感じられません。
日本が参加するかどうかの議論の中で、出資金額が莫大になる、という意見もありました。
GDPサイズで出資金を決めたようですから、日本が入れば計算が変わりますが、例えば中国の半分としても、150億ドル(約1兆8千億円)にもなります。我が国には、こんな巨額を投資する余裕はありません。
日本だけではありません。域内国で、中国も含めて財政に余裕のあるリッチな国は一国もありません。
中国自身が資本不足に悩み始めて思いついたプロジェクトではないかとすら思っています。
BRICs銀行なんて構想にBRICs各国は賛同しましたが、どの国も資本金を出すところまでは行きませんでした。どの国も手元不如意なのです。
印や露は、83億ドルとか、65億ドルを出資することができるのでしょうか。
印も露も、決して中国を信用していません。
どちらも経済が苦しく、出づるを制して入るを測りたい心境だろうと想像します。
信用できない中国に、こんな巨額の資金を出すはずがありません。
これには、しっかりとした裏交渉があると思います。
全くのゲスですが、この2国に関しては、既に出資金を上回る大型融資が約束されていると思います。もしかしたら、それまでの出資つなぎ資金も裏でファイナンスされるかもしれません。
当初中国は、500億ドル出資するつもりだったのが、予想外に多くの出資国が集まったので、こんな余裕もできるのではないかと思います。
中国の南北に位置する印露両国を従える形が出来、中国の顔が立つわけですから、安い?ものだと考えているのかもしれません。
欧州の4カ国には、それぞれ違った思惑があります。
EUの実力国である独は、欧州の大国として名乗りを上げたと思います。もともと中国との関係は良く、13億人の市場を睨んだ投資だと思います。
ただ、ここで頭に入れておきたいことは、独は、歴史的に外交が下手な国であることです。この少なくない投資がどう生きるか見守りたいと思います。
英は、香港の雨傘革命の時にも、中国にもの申せず、香港の人々を裏切りました。経済のために魂を売った国です。中国とはしっくりいってはいませんので、いち早く手を挙げたのだと思います。
欧州4カ国の参加が、その他の参加国を増やした効果があったことは間違いいありませんが、アジアのまだ豊かとは言えず、金融に疎い国々をミスリードしたのではないかと腹立たしく思います。
ただし、これまでの報道では、欧州4カ国は、AIIB運営の質的向上には関係ないことになりそうです。
いずれにしても、中国の皇帝に、世界中が貢ぎ金を差し出した、という形になりました。習近平としてはご機嫌なことでしょう。
以上縷々申し上げましたが、結論の一は、中国は変われない国なのだということです。
国際金融機関なぞというツールを持ち出して、全く中国的なものしか作れないということが良く分かりました。
二は、これに飛びつく世界には、現在は、これ以上の希望は見えないのかもしれないということです。これによって、素晴らしい世界が出てくるものでもありません。
厳しい財政状況の中から出資金を工面しなければならないところに追い込まれたアジアの参加国は、全くお気の毒だと思います。
三は、恐らく国家の保証による融資になりますが、インフラ投資の需要があっても、カントリーリスクから応えられないことがあるということです。
カントリーリスクに目をつぶれば、不良債権が増え、AIIBの格付けが落ちます。そして、資金調達コストが上がり、よって融資金の金利も上がり、国際金融機関のサラ金版に落ちぶれます。
中小企業に資金が廻らないといって、政治家が新銀行東京を設立しましたが、不良債権の山を築きました。それと似て、金融の世界では、需要があってもできないことが沢山あります。
最後に、日本政府は、しっかりとした判断ができて良かったと思います。
民主党政権でなくて幸運でした。