明治維新で変わったことは、政治面では、富国強兵、殖産興業などの政策が採られたことだけではありません。文化面でも文明開化によって、洋風の影響がいろいろと入ってきました。食文化も大きく影響を受けました。
仏教の教えからでしょうか、日本人は四つ足の動物は、表だって食べる習慣はありませんでした。
明治に入って、西洋人の影響を受け、牛肉など四つ足の動物も食するようになりました。明治の文豪の小説に、「牛肉を食べに行く」ことが、恰もファッションのように表現されていました。
日本人が牛肉を食べるというと、ステーキのこともありますが、普通はすき焼きやしゃぶしゃぶです。
戦後は、在日韓国人の間ではじまった「焼き肉」も、かなり普及しています。
それでも、毎日のように牛肉を食べている人は少ないのではないでしょうか。
30歳代の半ばに、ブラジルのサンパウロに赴任しました。
この国の人たちは、隣国アルゼンチンと並んで、牛肉を良く食べる人たちです。シュラスコと称して、剣に肉の塊を刺して炭火で焼きます。外側の焼けたところから削ぎ落として食べていきます。南米の言わばカウボーイ料理です。
ブラジルでは、牛肉はさほど高価ではなく、牛肉を食べていれば家計を圧迫しません。上流階級から下層階級まで、牛肉は大事なタンパク源です。牛肉価格の変動は、人々の、そして政府の大きな関心事です。
私は、この国で牛肉の味を覚えたように思います。
この国では、牛肉は、原則、冷凍前の生肉です。この味が最高です。冷凍されたものは、かなり味も、値段も落ちます。
考えてみると、日本では、原則冷凍牛肉ですね。すき焼き肉などは、冷凍しないとあのように薄く切れません。
日本人は、本当の牛肉の味を知らないと思いました。
それから、日本の牛肉と違って、広い牧場で、十分運動しながら育った牛ですから、筋肉に脂が混じっていません。
日本人は、通は、生焼きのレアーを楽しむ人が多くいましたが、ブラジル人は、衛生面の配慮もあってか、良く焼いて食べます。ウエルダンにすると消化も良くなります。部位によって異なりますが、脂が少ないことと相まって、胃にもたれないし、健康にも良いと思います。
ですから、牛肉が続いても、うんざりするようなこともありません。
和牛だったら、一度食べると、2〜3日は空けないと、食べる気になりません。
そのような環境で育った中学生の長男は、一度に500グラム近く食べてしまう習慣がついてしまい、帰国したら困るのではないかと心配しました。
そのような私たち家族が、帰国途中に立ち寄ったアメリカのビーフは、また別の味がして楽しめました。
この頃は、OZビーフと並んで、アメリカンビーフもスーパーの店頭に並び出し、家庭でも味わえるようになりました。
ロンドン滞在中の最高の贅沢は、スコッチビーフのステーキでした。これは、ミディアムかややレアー位がもっとも好きでした。
日本では、お目にかかりません。
牛肉に関しては、まだまだ不自由な未開の国です。この状態を維持することが国益なのでしょうか。