20日(日)に、久し振りに歌劇カルメンを新国立劇場で観ました。
今回は、指揮者と、カルメン、ドン・ホセ、エスカミーリョ(闘牛士)の3役だけを欧州から招聘し、あとは全部日本側のスタッフ、出演者によるものでした。
演出、舞台ともオーソドックスで、大変楽しめる公演でした。特に、カルメン役のキルスティン.シャベスは、歌、演技とも秀逸で、この様なカルメン役者がいたのかと思いました。
カルメンで想い出すことがあります。
1970年代後半、オイルショック後の後始末でサンパウロに赴任した時のことです。
当然のことですが、私が先ずやるべきことは、現地法人のリストラです。オイルショック前にはじめたプロジェクトの関係で、現地従業員は膨れあがっていました。弁護士などと相談をしながら、後日訴訟などにならないようにスリム化を進めました。
その際、先ず、秘書、通訳、運転手、受付などの人員整理からはじめました。
レセプションは、カルメンという名のモレーナ(アフリカ系と白人、インディオの混血)でした。今回のオペラのカルメンは、セクシーで美人、自分の意志をしっかり通す近代的女性でしたが、我が社のカルメンは、純情可憐な愛嬌のあるタイプでした。人の名前を良く覚える能力があり、優れた受付係でした。
総務課長が、退職勧告をしたところ納得せず、遂に社長室まで入ってきて、
「私はこの会社が好きなので、ぜひこのまま働かせて欲しい。」
と泣きながら訴えました。
社長である私は、幹部のリストラを考えていたので、その場合には自ら乗り出すことを考えていましたが、突然受付嬢が飛び込んできたのには、正直当惑しました。
やむを得ず、慣れない現地の言葉で、オイルショックの結果、この会社の業績は傾き、このままではブラジルからの撤退も考えなければならない事態になっていること、受付係は廃止することなどを話して、説得に努めました。
「カルメンは、素晴らしい受付係だった。次の雇用先から照会があった時には、その旨回答する。ぜひ、次の仕事を探して欲しい。」
カルメンは涙を拭きながら部屋を出て行き、やがて、次の職探しのための有給休暇を申し出てきました。
これが、私が部下に、退職勧告をした初めての経験でした。
1990年代中頃、私は、経営の傾いたある一部上場会社の経営担当の副社長でした。
当然企業の体質改善、スリム化などが焦眉の課題でした。
割増退職金をセットした希望退職を進めましたが、終身雇用の感覚が強いその企業には、人員整理などの経験は全くありませんでした。いやがる他の役員を引っ張ってそれを実行することは容易ではありませんでした。
この時、サンパウロでのリストラ経験は大いに役に立ちました。
要領は同じでした。
カルメンから、つまらない昔話になってしまいました。