我が家に、一本の花梨(カリン)の樹があります。
庭木としては大きい方で、幹は平べったく、太さは直径30×15cm位になっています。昨日、大きな葉の陰で、直径2〜3cmの小さい可愛い花が咲いているのを見付けました。
お恥ずかしい話ですが、この家に住んで35年になり、毎日眺められる位置に花梨の樹があるのに、花を見たのは今回が初めてです。毎年咲いていたのでしょうが、全く気がつきませんでした。
秋になると、どっしりとした重い実を付け、台風の多い10月頃に熟します。頭を直撃すると危ないくらいの堅さです。堅くて大きい果実のイメージとは異なり、花は可憐です。
我が家では、実を花梨酒やジャムにします。咳に良いといわれており、気道過敏症の私は進んで食べるようにしています。
7年前になりますが、韓国に旅行したことがあります。
バスで、釜山からソウルまで移動しました。窓から見える風景の中で目立ったのは、樹木では松と花梨が多いことと、鳥ではカケスが沢山飛んでいたことでした。丁度、秋だったので、花梨がたわわに実を付けていたのが印象的でした。
ぼんやりと、松や花梨は、朝鮮半島から日本に移ってきたのだろうと思いました。元気よく群れで飛んでいたカケスもそうであるに違いないとも思いました。
この旅行以来、花梨を見たり、花梨のことを考えると韓国を思い出すようになりました。
これを書いている間に、思い出したことがあります。
1977年か78年のことです。
ブラジルサッカー国内チャンピオンシップの決勝戦に、地元サンパウロのクラブチーム、コリンチャンス(Corinthians)が進出しました。相手は、リオグランデ・ド・スルの強豪インテルナシオナルです。決勝戦はサンパウロで行われます。サンパウロ中が興奮のルツボになったことはいうまでもありません。
運悪く、当日はオフィスで、東京から出張のN教授との面談が行われる予定になっておりました。
面談の冒頭、今日は大変なサッカーの試合があること、試合が始まると街中が興奮状態に入って危険になること、面談が長引くのであれば、ホテルに移って面談した方が安全であることなどを説明しました。
N教授は、メモをとりながら、サッカーの試合につていくつか質問した後、
「そのサンパウロのチームの名前は何というですか?」
と訊きました。
コリンチャンスであることをメモした教授は、
「コリンチャンですか、芸者の名前(註:かりんちゃん)みたいですね」
と言いました。
この教授のユーモラスな反応が面白く、何時までも記憶に残っていました。
この花の写真を見ながら、花梨は芸者の名前になるくらいだから、花は、昔から人々に愛でられていたのでしょう。
自分の庭先の花に、長年気付かなかった風流の無さに恥じ入った次第です。